元々Doyleの原作にはこの『シャーロック・ホームズの叡智』という作品集は存在せず、新潮社が『シャーロック・ホームズの冒険』『同思い出』『同帰還』『同事件簿』から紙面の都合上割愛した作品を一冊にまとめたものです。その意味で、Doyleの原作に少々手をつけてしまっているのが残念ですが、基本的には短編集ですし、読み進める際には問題ありません(例えば過去の事件の回想などという時に時間の歯車が噛み合わなくなる位)。上記の作品集から割愛されたからと言って定評が少ない作品であるはずもなく、勿論穂ホームズシリーズの名作が収録されています。
取り分け、「技師の親指」などは広く知られた話で、シャーロック・ホームズの代表的な事件記でもあります。怪しい屋敷で指を切られて逃げて来た技師の物語です。又、「緑柱石の王冠」の様に規模の大きな事件から、異色のカンニング事件を扱った「三人の学生」などジャンルも幅広く、一冊で十分に楽しむことが出来ます。相変わらず延原謙氏の翻訳文は個人的に好きで、19世紀末のロンドンの格調高い様子から荒廃した社会まで、ワトスンの手記を通して目に見えるように広がっていくのは魅力的ですが、訳者本人はまだまだ不本意な部分があるようです。
「シャーロック・ホームズの叡智」という題名のついたシリーズは実際の原作には存在しないのですが、ページの都合上他のシリーズでカットされたものが集められているそうです。だからといって他のものに劣るということは全くなく、他の物語同様どれも素晴らしい作品ばかりです。全部で8話納められていますが、中でも私のオススメは「技師の親指」という作品。この題名に興味を持った方、さっそく読んでみましょう!